「EQなき時代の終焉。これからのリーダーに必要なのは“感情の筋力”だ」
「なぜ、部下は動かないのか?」
「やることは全部伝えているのに、なぜか動いてくれない」
「一生懸命サポートしてるつもりなのに、部下が心を開いてくれない」
「“リーダーらしく”しているつもりなのに、チームがバラバラに見える」
そんなふうに、組織の中で孤独を感じているリーダーは、実は少なくありません。
仕事は順調、タスクはこなしている、でも“チームとしての一体感”が得られない──それは、感情のレイヤーが抜けているからかもしれません。
リーダーの資質として「戦略性」や「論理性」が重視された時代から、「人と人とのつながり」や「感情を扱う力」が問われる時代へ。
いま、静かに求められているのがEQ(感情知性)という“新しいリーダースキル”です。
IQからEQへ──見えない力が、組織を動かす
EQ(Emotional Intelligence:感情知性)は、1990年代に心理学者のサロヴェイとメイヤーによって提唱され、ダニエル・ゴールマンの著書を通してビジネス界でも注目されるようになりました。
では、なぜ「感情」なのか?
人は一見、理性的に行動しているようで、実は意思決定の80〜90%を感情で行っているという研究があります。
マーケティングや消費者心理では常識ですが、これは職場の人間関係でも同じ。信頼、安心、嫉妬、不安、期待、違和感──
感情が職場の空気をつくり、やがてチームの成果を左右します。
これまで「見えない」「扱いにくい」とされてきた“感情”を、リーダーが扱えるようになること。
それが、これからの組織の競争力を高めるカギなのです。
EQリーダーとは「感情を使いこなせる人」
では、EQの高いリーダーとはどんな人か?
EQは単なる“優しさ”や“共感力”ではありません。
それは以下の4つの力から構成されます。
- 自己認識力:自分の感情を正確に知る
- 自己管理力:感情に呑まれず、冷静にコントロールする
- 共感力:相手の気持ちを読み取り、寄り添う
- 人間関係力:信頼や協働を築く感情的スキル
たとえば、ある会議でメンバーの提案にイライラを感じたとき。
EQの低いリーダーは、その感情のまま否定したり、話を遮ったりします。
一方、EQの高いリーダーは「自分はいま、どう感じているか」「なぜそう感じたのか」にまず気づき、相手の意図や立場を想像しながら返答を選びます。
これができるかどうかで、チームの信頼残高は大きく変わります。
EQ不足が招く、組織の“静かな崩壊”
EQが欠けていると、何が起こるのか?
以下は、EQが低いマネジメントにありがちな現象です。
- 「何度言ってもわかってくれない」と感じる(→共感力不足)
- 「あの人とは合わないから…」と関係構築を避ける(→対人スキル不足)
- 「感情を見せると負け」と思い込む(→自己認識・表現力の不足)
- 「疲れてるのに、部下には元気なふりをしなきゃ」と無理をする(→自己管理の欠如)
こうしてリーダーが感情を抑え続けた結果、メンバーの信頼は下がり、相談されなくなり、孤立と誤解が広がっていきます。
人は、感情でつながっていない相手のためには、本気を出せません。
EQとは、人と人の“目に見えない接着剤”のようなものなのです。
【仮想事例】EQ導入がもたらした変化
ある中小企業では、離職率が高いことに課題を感じ、マネージャー層に向けたEQ研修を導入しました。
最初は「感情の研修なんて…」と違和感を抱いていたリーダーたちも、「自己認識ジャーナル」「感情語ワーク」「1on1でのリピートワード観察」などを重ねるうちに、徐々に変化が。
- 会議でメンバーの言葉を繰り返し返すようになった
- 感情の表現が「怒る」一辺倒から「驚き」「不安」「期待」へと広がった
- 部下が“本音で話してくれる”ようになった
結果、半年後には「人間関係に起因する退職」がゼロに。
リーダーとメンバーの間に「安全基地」が築かれたことで、成果の質も変わり始めました。
EQはスキル。“持って生まれた”ものではない
EQは才能ではなく、習慣で磨けるスキルです。
- 感情に名前をつける
- 自分の反応に気づく
- 相手の言葉の裏側にある気持ちを探る
- 違和感を言語化して共有する
こうしたシンプルな実践が、リーダーのEQを着実に育てていきます。
まとめ:「これからのリーダーは、感情のデザイナーであれ」
ビジネスの世界はますます複雑で、不確実で、不安定です。
だからこそ、組織の“安心感”や“つながり”をつくるリーダーの存在が重要になります。
その鍵が、「感情の筋力=EQ」。
数字やスキルだけでなく、感情という“人間らしさ”を武器にできるリーダーが、これからの時代を導いていくのです。
📌次回予告:「自分を知らずして、人は導けない」
〜リーダーに最も必要な“自己認識力”を鍛える方法〜