「自分を知らずして、人は導けない」
〜リーダーにとっての“自己認識力”の鍛え方〜
部下に変化を求める前に、立ち止まる
「部下が主体的に動いてくれない」
「言ったことしかやらない」
「もっと自分で考えて動いてほしい」
リーダーであれば、誰もが一度は感じる悩みです。
ですが、ここで立ち止まって考えてみたいことがあります。
そもそも、主体的に動くとはどういうことなのでしょうか?
指示されたから動くのではなく、
自分自身の内側から「やりたい」「やるべきだ」と感じて行動する。
それが、本当の意味での“主体性”ではないでしょうか。
では、どうすれば部下の内側から「動きたい」というエネルギーを引き出せるのでしょう?
ここでヒントになるのが、私たち自身の体験です。
思い返してみてください。
あなたが心から本気で動いたのは、どんなときだったでしょうか?
- 誰かに叱られたから?
- プレッシャーをかけられたから?
- それとも、目の前に“自分ごと”として感じられる目標や理由があったから?
部下に変化を求める前に、まず自分自身の「心が動いた瞬間」を知ること。
そこに、リーダーシップの出発点があります。
自己認識とは何か?
自己認識とは、「自分の内側を正確に見つめる力」です。
- 今、自分はどんな感情を抱いているか
- その感情はどんな価値観や思い込みから来ているのか
- どんなときにモチベーションが上がり、どんなときに下がるのか
- ストレスを感じたとき、自分はどんな反応をするのか
これらに意識的である人は、
感情に振り回されることなく、自分自身を“マネジメント”できます。
逆に自己認識が低いと、
感情に無自覚なままチームに悪影響を及ぼしたり、
気づかないうちに信頼を損ねてしまうリスクが高まります。
リーダーにとって自己認識が重要な理由
では、なぜリーダーにとって自己認識が不可欠なのでしょうか?
1. 「無意識の影響力」を管理できる
リーダーは、自覚している以上に周囲に影響を与えます。
たとえば、あなたがイライラしていると、
表情や態度に出さなくても、部下はそれを敏感に察知します。
すると、「今日は相談しにくいな」とチームの空気が冷えてしまうのです。
自己認識力が高いリーダーは、
自分の感情にいち早く気づき、無意識の影響を意図的にコントロールできます。
結果、チームに安心感と信頼感を提供できるようになります。
2. 判断や行動の質が上がる
リーダーは日々、難しい判断を迫られます。
このとき、感情に左右されずに冷静な判断をするためには、
「今の自分はどんな感情状態にあるか」に気づいていることが重要です。
怒り、不安、焦り。
これらの感情に無自覚でいると、
偏った判断や過剰反応を引き起こしやすくなります。
自己認識力は、いわばリーダーの“冷静さ”を守る盾です。
3. 自分の強みと弱みを活かせる
自己認識力が高い人は、自分の得意なことと不得意なことを冷静に受け止められます。
- 強みはさらに伸ばし
- 弱みは適切にカバーする
そんな柔軟な戦略を取れるようになるのです。
また、「自分も完璧ではない」という謙虚さが生まれるため、
チームメンバーを頼ったり、意見を聞いたりすることが自然にできるようになります。
これが結果的に、チームのエンゲージメントを高めるリーダーシップにつながります。
自己認識を鍛える3つのアプローチ
自己認識力は、意識的に鍛えることができます。
ここでは、現場で効果が高かった3つの実践法をご紹介します。
①感情ジャーナリング
毎日数分、自分の感情を記録するだけでも効果的です。
【記録例】
- 今日いちばん強く感じた感情は?
- その感情は何に反応して生まれた?
- そのとき、自分はどんな行動をとった?
たったこれだけの記録を続けるだけで、
自分の感情パターンやトリガーに敏感になり、
感情を客観的に見つめる力が育ちます。
②フィードバックの受け取り
自己認識には「他者の目」も欠かせません。
信頼できる同僚やメンバーに、
- 「私の態度で気になることはないか」
- 「コミュニケーションで改善できることはないか」
と率直に尋ねる習慣を持ちましょう。
フィードバックは時に耳が痛いものですが、
“見えない自分”を知るための貴重な手がかりになります。
③リフレクションタイムの確保
忙しいリーダーこそ、
毎日数分でも「立ち止まる時間」を確保しましょう。
問い例:
- 今日、うまくいったことは何か?
- 今日、もやもやした場面は何か?
- なぜ、そう感じたのか?
行動だけでなく「感情」も振り返ることで、
自分を客観的に見る習慣が自然に身についていきます。
【実例】自己認識力を高めたリーダーの変化
ある製造業のマネージャー研修で、
毎日5分間の「感情振り返りジャーナル」を続けたAさん(40代男性)は、こう語っています。
「最初は正直、意味があるのかなと思っていました。
でも続けるうちに、部下へのイライラの裏には、
“自分自身の焦り”があると気づくようになったんです。」
この自己認識の変化により、
- 部下への期待の伝え方が柔らかくなり
- チームの相談頻度が増え
- プロジェクトの進捗もスムーズになった
という効果が生まれました。
自己認識とは、単なる「内省」ではありません。
チームにダイレクトな影響を与える、リーダーの必須スキルなのです。
まとめ:「自己認識は、リーダーシップの核」
部下に変化を求める前に、まず自分を知ること。
それがリーダーシップの出発点です。
自己認識を高めることで、
- 感情に振り回されず
- 他者を理解でき
- チームを巻き込める
そんな本物のリーダーシップが育っていきます。
リーダーにとって最大の資産は、スキルや肩書きではありません。
自分自身を理解し、マネジメントできる力なのです。
📌次回予告:「感情に流されず、感情を生かす」
〜EQリーダーが実践している“感情マネジメント”の技術〜