「共感は甘さではない」
〜信頼される上司がやっている“感情の聴き方”〜
「うちの上司には何を言っても響かない」
「相談しても“で、どうしたいの?”で終わる」
「気持ちをわかってもらえた感じがしない」
こうした声が、若手社員や現場メンバーから聞こえてくるのは、決して珍しくありません。
リーダーとしては「的確にアドバイスしたい」「問題解決したい」と思っての対応でも、
部下側には「冷たい」「壁を感じる」と映ることがあります。
リーダーシップにおいて、『共感力=“相手の感情を聴く力”』は、信頼構築の基盤です。
今回は、EQ(感情知性)の視点から「信頼を育てる共感の技術」について解説していきます。
「共感=優しさ」ではない
日本の職場では、「共感」という言葉が誤解されがちです。
- 甘やかすこと?
- 同情すること?
- 相手の言いなりになること?
いずれも違います。
EQでいう共感とは、「相手の立場・気持ち・価値観を理解しようとする意志と行動」のこと。
つまり、
相手の感情に飲み込まれるのではなく、
その感情の背景を“理解しようと耳を傾ける力”です。
決して「いい人」である必要はありません。
むしろ、EQの高い共感は、深く、鋭く、正確な観察力と聴く力によって成り立っています。
なぜリーダーに「共感力」が必要なのか?
1. 心を開いてもらうため
人は、自分の感情が否定された瞬間に心を閉ざします。
「でもそれってさ」
「そんなこと言っても仕方ないよ」
「もっと前向きに考えたら?」
こういった“善意のアドバイス”が、相手には「理解されていない」と感じさせてしまうことがあるのです。
部下が本音を語るのは、「この人ならわかってくれる」と思えたとき。
その土台が、共感の姿勢です。
2. 自律を引き出すため
共感には、依存を生むような“なぐさめ”ではなく、
「あなたの感情を大切にしているよ」という尊重が含まれています。
その感覚は、部下の中に「自分の気持ちに責任を持つ」スイッチを入れます。
結果として、「指示されなくても自分で考えて動く“自律型人材”」を育てる土壌になります。
3. チームの心理的安全性を支えるため
Googleの研究でも明らかになったように、
“心理的安全性”の高いチームは、パフォーマンスが高いということが分かっています。
心理的安全性の根っこにあるのが、「感情が否定されない場」です。
その場づくりの鍵を握るのが、リーダーの“共感力”なのです。
EQリーダーが実践している「感情の聴き方」
それでは、EQリーダーは実際にどのようにして“感情を聴く”のでしょうか?
ここでは、現場で即使える3つの技術を紹介します。
① 感情語を使う
共感の第一歩は、「感情に名前をつける」ことです。
たとえば、
- 「そのとき、驚きもあったんじゃない?」
- 「悔しい気持ちもあったかもね」
- 「不安だったのかな?」
感情を具体的な言葉で表現してあげると、相手は「あ、自分のことを見てくれている」と感じます。
※決めつけにならないよう、「〜かもしれない」「〜って思ってたりする?」という語尾を添えることが大切です。
② リピートワードに注目する
相手が会話の中で繰り返す言葉は、“心の引っかかり”を示しています。
たとえば、
「結局、自分って中途半端なんですよね」
「うまくやらなきゃって思うんですけど…」
この「中途半端」「うまくやらなきゃ」がリピートワードです。
リーダーは、それを聞き逃さずにこう返します:
「“うまくやらなきゃ”って、今も思ってる?」
こうすることで、相手自身が自分の思考パターンに気づくきっかけになります。
③ 沈黙を恐れない
共感的な関わりでは、「沈黙」も大切な時間です。
すぐにアドバイスしたくなる気持ちをぐっと抑えて、
相手の言葉を反すうする時間を尊重する。
その空白が、信頼を育てます。
話し終えたあと、3秒間黙ってみる。
このシンプルな習慣が、意外にも大きな変化を生みます。
【実例】共感で部下の本音を引き出した上司
某企業のチームリーダーCさん(40代男性)は、部下のAさん(20代女性)が
「大丈夫です」としか言わず、本音が見えないことに悩んでいました。
研修で“感情語”と“リピートワード”の使い方を学び、
1on1で意識的にこう問いかけたそうです。
「“大丈夫”って、毎回言ってくれるけど、本当はどんな気持ちがあるの?」
「もし“悔しさ”とか“焦り”とかがあるとしたら、それも聞かせてほしいな」
この一言でAさんは少しずつ話し始め、
最終的には「実はずっと、自分の実力に自信がなかった」と吐露しました。
Cさんは「アドバイス」ではなく、「受け止め」を重ねた結果、
Aさんのモチベーションは回復し、半年後にはチームリーダー補佐として活躍するようになったのです。
共感は、リーダーの“静かな影響力”
共感は、感情的に流されることではありません。
ましてや、なれ合いや甘さでもありません。
それは、『相手の感情に耳を傾け、自律と信頼を育てる“静かな影響力”』です。
テクニックではなく、スタンス。
共感とは、「私はあなたの気持ちに価値を置いています」というメッセージそのものなのです。
まとめ:「聴けるリーダーは、信頼される」
- 話を“聞く”ではなく、“聴く”
- 表面的な言葉ではなく、感情の奥を聴く
- アドバイスよりも、まず共感
EQリーダーが実践しているのは、“感情を聴くことで、行動を引き出す”共感型マネジメントです。
あなたも今日から、相手の感情にもう一歩近づいてみませんか?
📌次回予告:「部下が動かないのは、命令が足りないからじゃない」
〜EQを活かした“共創型リーダーシップ”の実践〜
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